営業活動の一部を外部に委託する「営業代行サービス」は、日本では広く活用されているビジネス手法の一つです。
しかし、ベトナムではこのモデルがまだ一般的とは言えません。これは単なる「知名度の問題」ではなく、ベトナムのビジネス環境や文化的背景に根差した、いくつかの要因が関係しています。
要因1: 労働コストの安さが「内製志向」を生む
まず大きな要因のひとつが、営業人材の人件費の安さです。
ベトナムでは営業人材の採用・運用コストが相対的に低く、多くの企業が自社内で営業チームを組織する「内製型」の営業スタイルを採用しています。
特に中小企業では、少人数の営業チームを自社で運用し、コストを抑えることが主流です。
要因2: 営業ノウハウの属人化と分業体制の未発達
ベトナムの営業スタイルは、まだ標準化・体系化が進んでいないのが実情です。
多くの営業活動は属人的で、個々のスキルに依存する傾向があります。日本のように「インサイドセールス」「フィールドセールス」などの分業が定着しているわけではなく、とにかく数を当たる電話営業や訪問営業が主流です。
結果として、営業活動の目的が商談の質や成果よりも「KPI(活動量)を達成すること」に偏りがちになる傾向があります。
そのため、代行会社も同様に属人的・数頼みの営業に偏りがちで、クライアントが期待する戦略的な営業支援にはなりにくいというジレンマもあります。
要因3: IP電話の規制強化とアウトバウンド営業の限界
ここ数年、ベトナムでは電話営業への規制が徐々に強化されています。
特に、IP電話(インターネット電話)を用いた大量架電に対しては、スパム対策の一環として通信当局が制限をかける動きが広がっています。
これにより、営業代行会社が行っていた電話ベースのアプローチが難しくなり、業務範囲の見直しや新たなチャネル(SNS・Webinar・展示会など)への対応が求められるようになっています。
今後の営業代行サービスの展望は?
ここまで説明したように、ベトナムで営業代行サービスが十分に普及していないのは、単なる「知名度の問題」ではなく、市場構造・人材文化・規制環境が複雑に絡み合っている結果といえます。
とはいえ、近年はベトナム企業の成長や外資系企業の進出が進み、より戦略的でデジタルを活用した営業支援のニーズが高まりつつあります。
今後、営業代行サービスも「単なる電話営業」から脱却し、マーケティングやリード獲得と連携した形で進化していくと思われます。
ベトナム営業代行の契約形態と費用相場
ベトナムで営業代行サービスの料金体系等は、日本国内のサービスと異なる点も多く、サービス内容や価格設定にばらつきがあるため、事前に契約内容を理解したうえで慎重に検討する必要があります。
契約形態の主な3タイプ
1. アポインター人材の派遣型
現地スタッフを営業人材として一定期間派遣するモデルです。その他の方式と比べると比較的安価な契約形態です。
自社の営業チームの一員として稼働してもらえるため、管理や指示がしやすいというメリットがあります。ただし、教育や成果に対する責任分担が不明確になりやすく、運用面での課題も多く見られます。
やっと育成、定着した頃にそのアポインター人材の退職によりプロジェクトが停滞することも非常に多いです。
2. アポイント提供の買い切り型
事前に合意したアポイント件数を納品する方式です。このサービス方式は、現在のベトナムではあまりみられない契約形態です。
依頼者視点では、結果重視で契約できるのが利点ですが、事前のヒアリングや理解が浅いと、的外れなリードが納品されてしまうリスクも。
本来は、営業代行サービスと聞くと、この契約形態のイメージを持たれることが多いと思いますが、質の高いアポイント獲得を依頼できる企業が少ないのが実情です。
3. 成果報酬型(アポ獲得〜商談支援まで)
アポイント獲得だけでなく、商談の設定や契約成立までを含めた成果報酬型です。
成果主義のためリスクは少ないですが、サービス提供者にとっての負荷が高いため、対応可能な業者は限られています。
また契約後のレベニューシェア(売上のシェア)などの契約条項が盛り込まれることが一般的です。
費用相場の目安
ベトナムにおける営業代行サービスの料金は、一般的に以下のような価格帯が想定されます。
提供事業者がまだ少ないこともあり、相対的に見て割高に感じられるケースもあります。
契約形態 | 料金相場 |
---|---|
固定報酬型 | 日給 10,000〜30,000円 |
成果報酬型 | 1アポあたり 10,000〜30,000円 |
複合型(固定+成果) | 月額15〜30万円+成果に応じて変動 |
注意点:契約トラブルを防ぐには?
契約時には「成果の定義」「中間成果の報告頻度」「対応エリア」「クライアント提供リソース」などを明確にしておくことが重要です。
ベトナムでは商習慣の違いから、成果の基準や責任分担が曖昧なまま進行してしまうケースも多いため、契約書の整備と通訳支援の活用が推奨されます。
営業代行を依頼する前にすべき5つの準備
営業代行を有効に活用するためには、依頼前の準備が極めて重要です。
以下の5つのステップを実行することで、成果の最大化と無駄なコストの削減が期待できます。
1. 自社商品の競合優位性を整理する
ベトナム市場に投入しようとしている商品・サービスが、現地の市場環境においてどのような強みを持っているのかを明確にしましょう。
価格・品質・納期・サポート体制など、多角的な視点から自社の優位性を言語化することが重要です。
2. ベトナム市場における競合企業の洗い出し
現地で既に同種の製品・サービスを展開している企業をリストアップし、特徴や価格帯、販売チャネルなどを調査します。
可能であれば現地展示会や業界団体のレポートなども活用すると効果的です。
3. 自社の市場ポジショニングを明確にする
競合との差別化ポイントが見えてきたら、自社のターゲット市場と価格戦略を明確に設定します。
マス向けか、ニッチ市場か。現地価格に合わせるか、プレミアムポジションを取るか。この段階での戦略設計が、後の営業活動の精度を大きく左右します。
4. 顧客ターゲットとリストを作成する
営業代行会社に依頼する場合でも、最初に想定ターゲット像(業種・規模・所在地・決裁者の役職など)を明示できれば、提案精度が格段に上がります。
Excelなどで簡単な見込み顧客リストを作成しておくと、施策の初動がスムーズです。
5. トークスクリプトと資料の準備
現地営業担当が自社を的確に説明できるよう、サービス概要資料やトークスクリプト(営業時の話し方例)を用意しておきましょう。
特に初期の説明時点での誤解や説明不足を防ぐことが、コンバージョン率の向上につながります。
こうした準備を行った上で営業代行を活用することで、単なる「外注」ではなく、戦略的なビジネスパートナーとして最大限の価値を引き出すことが可能になります。
採用と営業代行、どちらがコスト効率的か?
営業体制の構築にあたっては、現地で営業担当者を採用するのか、それとも営業代行を活用するのかという選択に迫られます。
それぞれのコスト構造やメリット・デメリットを理解しておくことが、最適な判断につながります。
比較軸 | 現地採用(日本人) | 現地採用(ベトナム人) | 営業代行 |
---|---|---|---|
初期費用 | 中程度〜高い | 低い〜中程度 | 低い〜中程度 |
月額固定費 | 約30万円〜 | 約5〜30万円 | 案件ベースで変動制 |
教育コスト | 普通 | 高い | ほぼ不要 |
ノウハウ蓄積 | ◎ | ○ | △ |
柔軟性 | △ | ○ | ◎ |
成果の見える化 | ○ | △ | ◎(契約内容により) |
日本人営業担当を現地採用する場合
メリット
- 自社サービスや文化への理解が深く、商談の質が高まる
- 日本本社との連携がスムーズ
デメリット
- 人件費(駐在員待遇の場合)の負担が大きく、年収600〜1,000万円規模も珍しくない
- 労働許可証やVISA取得、住宅・車両支給などの管理負荷が高い
- ベトナムであるため、候補となる日本人求職者自体が少ない
ベトナム人を採用する場合
メリット
- 人件費は月額5万〜15万円程度で抑えやすい
- 現地文化や言語に強く、ローカル営業に強み
デメリット
- 商品理解や日本的な営業マナーの習得に時間がかかる
- 指導・教育に継続的な工数が必要
- 急な退職リスクが比較的高い
営業代行を活用する場合
メリット
- 即戦力として営業活動を開始できる
- 契約期間や成果に応じて柔軟な運用が可能
- 採用・育成・管理などの手間を削減
デメリット
- ノウハウが社内に蓄積されにくい
- 営業担当の専属性や深度に限界がある(複数社対応のため)
コスト比較シミュレーション(月額ベース)
選択肢 | コスト(概算) | 管理負担 | ノウハウ蓄積 |
---|---|---|---|
日本人採用 | 30〜120万円+諸経費 | 高い | 高い |
ベトナム人採用 | 5〜30万円+教育コスト | 中程度 | 中程度 |
営業代行 | 15〜30万円+成果報酬 | 低い | 低い |
このように、目的やフェーズによって最適な手段は異なります。
短期のテストマーケティングであれば営業代行を活用し、長期展開を視野に入れるなら現地人材の採用・育成を視野に入れる、といった判断が求められます。
ベトナム営業代行を使うべきかどうかの判断軸
営業代行の利用を検討する際には、目的や事業フェーズに応じた「判断軸」を持つことが重要です。
以下の視点をもとに、外注すべきか、内製で進めるべきかを整理してみましょう。
◯ 活用をおすすめするケース
- 現地法人がまだなく、まずはテストマーケティングを行いたい
- 短期間で市場反応を把握したい
- リスクを抑えつつ、商談機会を創出したい
△ 限定活用が有効なケース
- 一部地域だけ外注し、その他は自社で運用したい
- 既存パートナーと比較検証したい
× 自社運用が望ましいケース
- 長期で販路を構築し、自社ノウハウを蓄積したい
- 社内で営業体制を整備しつつ、社内定着を図りたい
判断チャート
以下のような簡易チェックで、自社にとっての方向性を見極めてみてください。
質問 | YES | NO |
---|---|---|
現地法人はありますか? | →自社採用検討 | →営業代行も候補に |
短期的なプロジェクトですか? | →営業代行向き | →採用と比較検討 |
営業資料や商品理解の整備ができていますか? | →採用も有効 | →まずは営業代行で試行 |
現地の市場知識が不足していますか? | →営業代行で支援 | →社内で育成可能 |
このように、営業代行は決して「安価な代替手段」ではなく、フェーズと目的に応じた戦略的な選択肢といえます。
無理に内製するよりも、最初は外部の力を借り、一定の成果が出た段階で自社主導に切り替える「段階的導入」が、ベトナム市場では特に有効なアプローチです。
まとめ|営業代行は“外注”ではなく“パートナー”として活用を
ベトナムにおける営業代行は、まだ黎明期ともいえる段階にあります。そのため、単に日本の手法を持ち込むだけでは十分な成果は期待できません。
とはいえ、費用対効果やスピード感、現地理解などの観点から見ても、上手に活用すれば強力な武器になります。
まずは小さく始め、結果を見ながら段階的に拡大していく「検証型アウトソーシング」の発想が重要です。