これから海外展開を検討している企業にとって、海外市場への挑戦は大きなステップとなります。どのような検討プロセスで計画を立て、海外展開を進めていくかを体系的に知っておくことで、大きなリスクを避け、海外ビジネスの成功可能性が格段に高まります。
本記事では海外進出を成功させるための検討手順について、具体的なステップごとに解説いたします。
◆目次
Toggle1. 海外展開を検討する際の初期ステップ
一般的な新規事業の際もそうですが、海外展開を検討する場合は特に入念な準備が大切になります。日本国内と違い、海外展開は金銭面でも人材面でもコストかかります。ここでは、初めて海外市場に進出する際に検討すべき3つの基本ステップを紹介します。
1-1. 自社製品/サービスの強みを改めて把握する
海外展開を考える最初のステップは、自社製品/サービスの強みを改めて把握することです。「そんなの当たり前でしょう」ということではありますが、本当に重要なことだと思います。
弊社の過去の体験でも、「今は日本でそれなりに売れているから」や「日本製品だから海外ユーザーも興味を持ってくれるはず」といった理由でなんとなく海外展開をしてしまった結果、現地では全く売れず、撤退していった日本企業を多く見てきました。
そこで海外市場で成功できるかどうかを見極めるため、以下3つの観点で深掘りしてみてください。
- 自社製品/サービスが現地の消費者に受け入れられるか?
顧客ニーズの深掘りが重要です。オフラインやオンラインでの調査を行い、現地でのニーズ感を把握することができます。
オフライン: 現地の展示会出展、インタビューやアンケート調査など
オンライン: Googleトレンド(検索ニーズの確認)、現地の主要SNSの調査、デジタル広告など - その商品はその国で需要があるのか?(市場規模)
ターゲット層の市場規模を調査し、大枠での自社製品がどの程度の売上を見込めるかを具体化します。
現地の統計データや政府のレポート、民間の市場調査データを活用したり、同じ市場に参入している 競合他社の動向から、需要の有無や参入の難易度を判断できます。 - 競合他社に自社の強みを活かして差別化できるか?
他社と比較して、自社の強み(品質、価格、独自性など)がどこにあるかを具体的に整理し、表にまとめます。
そして、現地の競合他社の弱点を突く戦略を立てていく流れになります。
海外展開を念頭に置くとわかりにくいようであれば、現在の市場(日本等)において自社商品が「売れている理由」を箇条書きで書き出してみてください。
基本的に初期フェーズの海外展開においては、自社商品をいきなりローカライズはせず、勝ち筋が見えてから実施すべきです。したがって、現状の仕様で海外市場に挑戦することを前提として、現状の市場での勝ち方が海外で通用すべきかを検証する必要があります。
次に、社内のリソース(資金や人材など)が十分に揃っているかどうかも検討しましょう。先述の通り、海外展開には通常よりも多くのコストがかかります。マーケティング費用、物流コスト、法務費用など、事前にどれくらいの資金が必要か計算することが大切です。
人材についても、現地の言語や文化に精通しているスタッフが必要になる場合があります。これらのリソースを揃えた際に、どれくらいのコスト感になるか?そしてそれは海外事業への投資としてベットすべきなのかを検討ください。
最後に「自社の販売手法(商流)が海外でも実施できるかどうか」を確認することも忘れてはなりません。例えば、商品がオンラインで販売されている場合、進出先の国ではインターネットがどれほど普及しているのか、現地の消費者がオンラインショッピングに慣れているかも考える必要があります。
1-2. 進出する国や地域の選定
世界には多くの市場がありますが、すべての市場が自社ビジネスに適しているわけではありません。進出する市場を選ぶ際には、いくつかのポイントを確認する必要があります。
- 法規制と外資規制
国によっては、外資系企業が参入する際に特別な手続きが必要だったり、特定の資本金が必要であったりします。また特定の業種に対して厳しい規制が敷かれている場合が多々あります。経営ライセンスの取得面や貿易面、許認可などの入念な確認が必要です。 - 政治的・経済的な安定性
進出先の国が政治的に不安定な場合、急な法律変更や税制改革など、予期しないトラブルに巻き込まれる可能性があります。経済的な成長率やインフラの整備状況も、ビジネスの成功に大きく影響する要素です。
国別の調査に当たっては独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)のWebサイトを活用すると幅広い情報収集が可能です。
引用: 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
弊社でも東南アジアを対象に様々な観点で情報をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
1-3. テストマーケティングでビジネスの可能性を見極める
進出する国、市場を選んだら、その次に行うべきは「テストマーケティング(市場調査)」です。テストマーケティングでは、今後その国で製品を販売をしていくとして、現地のユーザーが何を求めているのか、どのような商品やサービスが人気なのか、どのくらいの価格帯が適しているのかを詳しく調べます。これは、フィージビリティスタディ(実現可能性調査)とも呼ばれ、進出する前に必ず行うべきステップです。
テストマーケティングの開始前には、ゴールを設定します。
例えば、
・現地のパートナーを開拓: 自社製品を売れると思ってくれるディストリビューターを見つける
・製品の市場適合性を検証: Webマーケティング等で現地ユーザーから反響を獲得する
・適正価格の確認: 現地の購買力に合った価格帯を特定する
などが一般的です。
これらの具体的な実施方法については、次の章にて解説しています。
2. 現地市場のニーズを把握するための調査方法
海外でビジネスを成功させるためには、現地市場の消費者が何を求めているのかを把握することが欠かせません。ニーズに合わない商品やサービスを提供しても、需要がなければ売れないからです。ここでは、現地市場のニーズを効率よく調べるための方法をいくつか紹介します。
2-1. オンラインでの市場調査
最も手軽な方法は、インターネットを使った調査です。オンラインで得られるデータやレポートを活用して、現地のトレンドや消費者の傾向を掴むことができます。例えば、現地政府や市場調査会社が発表している公式なデータや報告書には、消費者の購買行動や人気商品の動向が詳しく記載されています。
特に、ECサイトやSNSでのレビューやコメントをチェックすることで、リアルタイムで消費者の声を知ることが可能です。これにより、現地市場でどのような商品が受け入れられているか、どんな不満点があるかを確認できます。インターネット上には多くの無料ツールやデータベースがあるため、手軽に市場調査をスタートできるのも大きなメリットです。
2-2. アンケートやインタビューの実施
オンラインの情報だけでは、現地のニーズを詳細に把握しきれないことがあります。そのため、現地の消費者に直接アンケートを実施したり、インタビューを行うのも効果的な方法です。アンケートでは、消費者がどのような商品やサービスに興味を持っているのか、どんな悩みを抱えているのかを具体的に聞き出せます。
オンラインでアンケートを実施する場合、コストを抑えつつ大量のデータを集められるため、特にターゲット層が明確な場合には有効です。また、インタビューでは消費者と直接対話することで、より深いニーズや意見を引き出すことができます。インタビューは少人数に対して行うため、よりパーソナルで具体的なフィードバックを得やすい点が強みです。
2-3. 現地パートナーとの連携
現地の市場について詳しく知っているパートナー企業や代理店と協力するのも、ニーズを把握するための有効な手段です。パートナー企業は現地での消費者の購買行動や文化的な習慣についての知識を持っているため、あなたの会社では気づけないニーズやトレンドを教えてくれる可能性があります。また、現地企業との連携を通じて、商品テストやプロモーションを行う機会を得ることもできるかもしれません。
現地の人々と直接接する機会が増えることで、消費者が求めているものをリアルタイムで把握し、商品の改善や新サービスの開発につなげることができるでしょう。こうした連携は、単なる調査ではなく、ビジネス展開の加速にも役立ちます。
2-4. 試験販売やテストマーケティング
試験的に商品を少量販売することで、消費者の反応を直接確認する「テストマーケティング」も非常に効果的です。テストマーケティングは、小規模で販売を開始し、現地の消費者がどのような反応を示すかを観察する方法です。これにより、商品が受け入れられるかどうか、また価格設定やプロモーション方法が適切かどうかを見極めることができます。
例えば、現地のショッピングモールやオンラインショップを活用して一定期間販売を行い、その売れ行きや消費者からのフィードバックを元に商品やサービスの改善を行います。失敗してもリスクを最小限に抑えつつ、リアルな市場データを得られるため、正式な展開前に課題を見つけて解決することができるのが利点です。
市場のニーズを把握するためには、オンライン調査やアンケート、現地パートナーとの連携、そして実際のテスト販売を組み合わせることで、より正確で実用的なデータを得ることができます。これらの手法を活用して、現地の消費者が本当に求めているものを理解することが、海外展開の成功への鍵となります。
3. 法律や文化のリスクを回避するための対策
海外市場に進出する際、現地の法律や文化の違いを無視すると、ビジネスに大きなリスクが伴います。予期せぬ法的トラブルや、文化的な誤解による消費者の反発を避けるためには、事前のリスク回避が欠かせません。ここでは、法律と文化のリスクを回避するための具体的な対策について説明します。
3-1. 現地の法律を正確に理解する
まず、現地の法規制について理解することが重要です。国ごとに異なる法律は、消費者保護、労働基準、税制、知的財産権など、幅広い分野にわたります。例えば、食品や医薬品を扱う場合、現地の品質基準や安全基準を満たさないと販売が許可されないことがあります。
また、税制に関しても各国で異なる税率や課税方法があるため、現地の専門家と相談し、適切な対応を取ることが必要です。法律を無視して事業を進めると、罰金や営業停止のリスクがあるだけでなく、会社の信頼性にも影響を与えることになります。そのため、進出先の国や地域の法律を正確に理解し、常に法令を遵守することが重要です。
3-2. 法務の専門家を活用する
現地の法律は複雑で、専門的な知識が必要になる場合が多いため、現地の法務専門家に相談することが有効です。例えば、弁護士やコンサルタントを雇い、進出先の法律や規制に対応した適切な手続きや契約書の作成を依頼しましょう。
特に、現地法人の設立や契約関連の法務手続きには、現地の専門知識が欠かせません。税務や労働法、消費者保護法なども専門家のアドバイスを受けることで、違法行為やトラブルを回避できます。海外進出に伴うリスクを最小限に抑えるためには、信頼できるパートナーを見つけ、常に法的なサポートを受けることが重要です。
3-3. 文化的な違いを尊重する
法律だけでなく、文化的な違いにも注意を払うことが成功の鍵です。進出先の文化や価値観を無視した商品やサービスは、消費者の共感を得られず、販売不振に陥る可能性があります。例えば、宗教的な背景や習慣に関する知識がないままに広告やパッケージデザインを行うと、現地で反感を買うこともあります。
また、現地のビジネスマナーを理解し、適切なコミュニケーションを取ることも重要です。国や地域によって、ビジネスの進め方や交渉のスタイルが大きく異なるため、現地の文化に配慮しながら進めることで、良好なビジネス関係を築くことができます。
3-4. 文化リスクを避けるための市場調査
文化的なリスクを避けるためには、事前に現地の文化や消費者の価値観を深く理解しておく必要があります。市場調査の際には、消費者の購買行動だけでなく、文化的背景や価値観、タブーなども調べましょう。例えば、特定の色やシンボル、表現が宗教的な理由で忌避されている場合、それらを商品や広告に使用すると販売に悪影響を及ぼすことがあります。
また、現地の祝祭日や季節的なイベントも重要な要素です。これらをビジネスにうまく取り入れることで、消費者とのつながりを深め、ブランドイメージを向上させることが可能です。市場調査や現地のパートナーの協力を活用して、文化的なリスクを避けるための知識を深めましょう。
3-5. コンプライアンスと持続的なリスク管理
最後に、現地の法律や文化を尊重し続けるためには、コンプライアンス体制を整えることが大切です。法律はしばしば変更されるため、定期的に法改正の情報を収集し、必要に応じてビジネス戦略を調整することが求められます。社内でコンプライアンスを強化し、社員に現地のルールや文化を周知徹底することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
また、進出後も現地の文化や消費者の嗜好が変化することがあるため、定期的な市場調査を通じて、常に最新の情報を得ることが重要です。法律や文化に対する理解を深め、持続的なリスク管理を行うことで、現地での成功を長期的に維持できるでしょう。
4. 効果的なマーケティングとブランディング戦略
海外市場で成功するためには、現地の消費者に自社のブランドや商品を効果的に伝えることが不可欠です。これは、単に広告を出すだけでなく、現地に合ったマーケティングとブランディングの戦略を考える必要があります。ここでは、海外展開における効果的なマーケティングとブランド構築の具体的な方法について説明します。
4-1. ターゲット市場を明確にする
まず、マーケティングの基本として重要なのは、誰に向けてアプローチするのかを明確にすることです。海外市場では、文化や価値観、購買行動が国ごとに異なるため、自社の商品がどの層に受け入れられるのかを見極めることが大切です。
例えば、若者向けの商品であればSNSを中心にしたデジタルマーケティングが有効ですが、高齢者をターゲットにする場合は、テレビやラジオといった従来のメディアを活用する方が効果的かもしれません。市場調査の段階でターゲット層を絞り込み、それに基づいたメッセージを発信することで、マーケティングの効果を最大化できます。
4-2. 現地に合ったメッセージを作る
海外展開では、現地の文化や言語に配慮したメッセージを作成することが非常に重要です。国ごとに価値観や感覚が異なるため、例えば日本で通じる表現が他の国では誤解される可能性があります。現地の言語で消費者にわかりやすく伝えるために、単なる翻訳ではなく、現地の文化に合った言葉や表現にローカライズすることが大切です。
また、ユーモアや感情を伝える方法も国によって異なるため、現地の人々が共感しやすいストーリーテリングを使うことも有効です。消費者の心に響くメッセージを届けることで、ブランドの認知度や信頼度を高めることができます。
4-3. デジタルマーケティングの活用
デジタルマーケティングは、海外展開においても非常に有効な手段です。インターネットが普及している国では、SNSやオンライン広告、SEO(検索エンジン最適化)を活用することで、コストを抑えつつ多くの人にリーチできます。特に、FacebookやInstagram、YouTubeなどのプラットフォームは、ターゲット層に絞った広告配信が可能なため、効率的にマーケティングを展開することができます。
また、インフルエンサーマーケティングを活用することで、現地で人気の人物を通じて商品やブランドをアピールするのも効果的です。デジタルメディアを活用すれば、比較的低コストで広範囲に情報を拡散できるため、初めての海外進出でも力強い武器となります。
4-4. 現地でのイベントやプロモーション活動
オンラインでのマーケティングと並行して、現地でのイベントやプロモーション活動も重要です。消費者との直接的な接点を持つことで、ブランドの印象をより強くすることができます。例えば、現地の展示会や見本市に参加して、自社の商品を直接紹介する機会を作るのは効果的です。
また、試飲会や体験イベントを行うことで、消費者が実際に商品を手に取って体験できるようにするのも良い方法です。特に食品や化粧品など、感覚に訴える商品では、消費者が直接体験することで購入意欲が高まるケースが多くあります。イベントやプロモーションを通じて、ブランドとのつながりを深めましょう。
4-5. ブランドの一貫性を保つ
最後に重要なのは、どの国で展開してもブランドの一貫性を保つことです。海外展開において、現地の文化に合わせたアプローチを取りながらも、ブランドの核心部分、つまりブランドの価値やメッセージは統一されたものにすることが重要です。ブランドのイメージが国によって異なると、消費者に混乱を与える恐れがあります。
例えば、ブランドロゴやキャッチフレーズは一貫して使用しつつ、メッセージを現地向けにアレンジするなど、バランスを取りましょう。一貫したブランドイメージを持つことで、グローバルな信頼性が高まり、消費者に安心感を与えることができます。
効果的なマーケティングとブランディング戦略は、現地の文化やニーズに応じた柔軟な対応と、一貫性のあるブランドイメージの両立が重要です。これをしっかりと実行することで、海外市場でも自社の存在感を高めることができるでしょう。