海外で日本製の商品やサービスを販売するためには、ターゲット国でのブランディングが重要になります。日本を離れグローバルな視点でみれば、世界は多様な価値観や商習慣が存在するため、一律のマーケティング手法では十分な効果が得られません。
本記事では、海外でのブランディングに必要なローカライズの考え方、デジタル広告やインフルエンサー活用について解説しています。
◆目次
Toggleブランディングとは
ブランディングとは、市場において自社の製品・サービスが他社と明確に差別化され、市場において独自の地位を確立するための戦略的手法です。
他者との差別化による独自ポジションの確立
ブランディングによって、他社製品との差別点を打ち出し、自社ブランドが「ここでしか得られない」価値を提供することで、市場における強固なポジションを築きます。
単に製品やサービスを認知させるだけではなく、それを通じて顧客がブランドに対して抱く信頼感・共感・期待感を育み、企業を「選ばれる理由」そのものへと昇華させます。
ブランドを作る要素とは
ブランドを作る要素には、例えば以下のようなものがあります。
要素 | 例 | 詳細 |
---|---|---|
ブランド名 | UNIQLO | 「ユニーク・クロージング・ウェアハウス(Unique Clothing Warehouse)」を由来とする名称。短く覚えやすく、グローバル展開にも適したブランド名。 |
ブランドカラー | 赤と白 | ロゴに用いられる赤と白は、シンプルで印象的な配色によりグローバルな認知度を確立し、ブランドイメージを鮮明に打ち出す。 |
ブランドロゴ | 四角形の中に「UNIQLO」表記 | シンプルなロゴは国境を越えた視認性と信頼感を醸成。赤地に白文字のロゴはブランドを象徴し、他ブランドとの差別化にも寄与。 |
コンセプト | 「LifeWear」を通じて日常を豊かに | 「LifeWear(ライフウェア)」というコンセプトのもと、高品質で機能性が高く、誰にでも手頃な価格で日常生活をより良くする服づくりを目指している。 |
企業国籍 | 日本 | 山口県発祥の日本ブランド。品質へのこだわりや匠の技術、丁寧なものづくりの精神が背景にあり、世界的な信頼獲得に貢献。 |
特徴 | シンプルで高品質、機能性重視 | ベーシックかつ長く愛用できるデザインと、ヒートテックなどの機能素材を積極的に採用。これにより幅広い顧客層に受け入れられる普遍的な価値を提供。 |
ブランディングによって得られる利点
効果的なブランディングは、中長期的な事業成長を力強く後押しします。
- 顧客からの強固な信頼獲得
顧客が競合製品と自社製品のどちらを選ぶべきか迷った際にも、確立されたブランドは顧客の決定を後押しします。仮に同等の価格帯・機能を持つ商品が並んでいても、顧客は「こっちのブランドは知っている」と判断しやすくなります。 - 販売単価の向上につながる
ブランディングに成功した恩恵として、競合との価格競争から自社商品・サービスを守ることができます。ブランド価値が認知されれば、多少の価格上昇があっても顧客は「その価値」に対して支払いを厭わなくなります。高品質アパレルや高級家電がブランド力によって高価格戦略を可能にするのはその好例です。 - リピート顧客の獲得と顧客ロイヤリティの向上
良好なブランド体験は、顧客を一度きりの購入者ではなく、「次もこのブランドを選ぼう」と思わせる継続的なファンへと転換します。「週末は自宅でのんびり映画やドラマを楽しみたい」「新作のコンテンツを気軽にチェックしたい」という気分になったとき、ある特定の動画配信サービス名が自然と頭に浮かぶのであれば、その企業はブランディングに成功しているといえます。 - 販売促進コストの低減
強いブランドは消費者の記憶に残りやすく、プロモーションにかけるコストを抑制できます。大規模キャンペーンに依存することなく、ファンコミュニティや口コミによる自然な拡散が見込めるため、長期的なマーケティング投資効率が高まります。
海外進出時にはブランディングは必要?
海外進出、海外での事業展開において、日本とは別に対象国で独自ブランディングは必要です。
海外進出に独自のブランディングが不可欠な理由
- 日本での知名度が通用しないから
海外市場では、多くの場合、日本でのブランド認知度や評判はほぼゼロからのスタートとなります。そのため、現地の消費者がブランドを正しく理解し、信頼を寄せるためには、新たなコンセプトの提示や現地文化に合わせたコミュニケーション戦略が不可欠です。 - 現地の価値観やニーズが全く異なるから
海外市場には、その国固有の消費者行動や価値観、デザイン・機能に対する好みがあります。例えば日本で評価される「高品質」「緻密な設計」が、必ずしも海外の消費者にとって最高の魅力になるとは限りません。その国特有のニーズを的確に捉えたブランドメッセージや商品提案が求められます。 - 日本とは異なる競合がいるから
海外市場には、日本では見られないローカルブランドや、世界的なグローバルブランドが多数存在しています。これらの中で独自のアイデンティティを確立し、差別化を図るには、現地の消費者心理や競合ブランドの強み・弱みを踏まえた独自のブランディング戦略が欠かせません。
ブランディングのために事前に準備しておくもの
- ローカライズしたWebサイト
現地言語での情報発信ができるWebサイトやオウンドメディアなどが必要です。デザイン、レイアウト、決済手段など、Webサイトを現地市場に合わせて最適化し、消費者がブランドと自然に触れ合えるデジタル環境を整えましょう。 - ローカライズした動画コンテンツ
企業や商品紹介、ブランドストーリーなどの映像素材を、現地の言語や文化的文脈を踏まえた表現で制作することで、ブランドの価値観や製品の魅力を直感的かつ効果的に訴求することができます。 - SNSアカウント
現地ユーザーが慣れ親しんだSNSプラットフォーム上で公式アカウントを開設・運用することで、顧客との直接的な対話やフィードバック収集が可能となり、ブランドロイヤリティ向上や口コミ拡散につなげることができます。
ローカライズの考え方
言語と文化に合わせた工夫をする
ローカライズとは、現地に合わせてブランドメッセージを調整し、現地の人に受け入れられやすくすることです。単なる翻訳ではなく、その国の言語表現や文化的な背景、価値観に合わせた見せ方が必要です。たとえば、広告文やキャッチコピーを、その土地でよく使われる言い回しやユーモアに合わせると、消費者は「このブランドは自分たちを理解している」と感じるようになります。
また、見た目の印象も大切です。写真やイラストで使う色や構図、人の様子などを、その国で好まれるスタイルに合わせると、広告やサイトが自然な雰囲気になります。たとえば、アジアでは家族や仲間を大切にするイメージが好まれ、欧米では個人の自由や自己表現を重視する傾向があります。こうした違いを意識してビジュアルを選ぶことで、「自分たち向けに作られた」と感じてもらえます。
ローカライズは、現地の人がブランドを身近に感じ、親近感を持つきっかけになります。結果として、ブランドへの信頼やロイヤリティ(愛着)が高まり、購買意欲も上がります。
地域特有のストーリーテリングの重要性
ローカライズには、地域ごとの歴史や価値観に合わせたストーリーテリング(物語づくり)も効果的です。たとえば、日本では伝統文化の大切さを強調するストーリーが心に響きやすく、アメリカでは自由や革新性を前面に出した話が好まれる傾向にあります。
ブランドが、その土地の人が大切にする考え方を理解し、それを物語として伝えることで、「このブランドは私たちのことをわかってくれている」と感じてもらえます。こうした取り組みは、消費者との信頼関係を深め、ブランドを長く応援してもらえる土台となるのです。
デジタル広告を活用したブランディング
デジタルで対象国へ直接アプローチできる
特にBtoB企業の場合であれば、デジタル広告は、海外市場でもターゲット層へ直接リーチできる強力な手段です。市場やトレンドが変わりやすい海外でも、瞬時に多くのユーザーに広告を届けられ、短期間で関心を引くアプローチが実施できます。
以下は、デジタル広告を活用して海外市場のターゲット層へ直接アプローチする際に用いられる、代表的な広告施策の例です。
- 検索連動型広告
ターゲット国の検索エンジン上で、関連キーワードに応じて広告を表示し、ニーズが高いユーザーへピンポイントでブランドを支給。 - ディスプレイ広告
現地の人気サイトやニュースメディア上にバナー広告を掲載し、広範囲にブランド露出を図る。 - SNS広告
Facebook、Instagram、Twitter、WeChatなど、現地で主流のSNSプラットフォーム上のフィードに広告を表示。 - 動画広告
YouTubeやTikTokなど、動画プラットフォームを活用して、短時間で視覚・聴覚的に印象深いメッセージを伝える。
広告時の留意点2選
1. 文化的背景を考慮すること
対象国の文化や価値観を踏まえたメッセージが欠かせません。たとえば欧米向けには個人の自由や自己表現、アジア圏向けには家族や信頼関係を重視した表現が効果的と言われます。その国の国民性、歴史的背景を知っておくことが重要です。例えば、国によって色(赤や青)に感じるイメージが違うのはよく海外ブランディングで議題に上がります。
2. 現地ニーズに合わせた表現を使うこと
直接的でシンプルな表現が好まれる地域もあれば、感情や暗示的な表現が響く地域もあります。スマートフォン普及率やSNS利用率など、現地の利用環境を把握し、その行動特性に合わせて広告を最適化しましょう。
現地インフルエンサーとのコラボレーション
信頼性向上と見込み客リーチ拡大
特にBtoC企業の場合であれば、海外市場でブランドの知名度や信頼度を高めるには、その地域で影響力を持つインフルエンサーとの提携が効果的です。インフルエンサーは、すでに現地のファンから信頼を得ている存在。そのため、彼らがブランドを紹介すると、まるで友人や家族に勧められたような安心感を消費者に与えます。これにより、ブランドへの好感度や購買意欲が高まるのです。
また、インフルエンサーは既存のフォロワー層を通じて、短期間で多くのユーザーへ情報を発信できます。特にSNS上で活躍するインフルエンサーと組むと、若年層やデジタル世代へ効率的にアピールできます。普段から目にするコンテンツの中でブランドが自然に紹介されることで、消費者は抵抗なくブランド情報を受け入れやすくなります。
インフルエンサー活用までの具体的な手順
- ターゲット選定
市場特性や商品の特徴をもとに、狙いたい顧客層を明確にします。たとえば、若年層や健康志向層など、誰に届けたいのかをはっきりさせることが重要です。 - インフルエンサーの調査
ターゲット層に影響力があり、ブランドイメージに合ったインフルエンサーを探します。フォロワーの数やエンゲージメント率(いいねやコメントの多さ)をチェックし、より効果的な相手を選びます。 - コンタクトと条件交渉
選んだインフルエンサーに連絡を取り、案件内容や報酬、投稿の回数・時期などを話し合います。双方が納得できる条件を整えることで、スムーズな協力体制を築けます。インフルエンサーとの直接の交渉が難しい場合、現地でインフルエンサーを抱えている事務所等があれば、そちらにコンタクトしてみるのも良いでしょう。
急速な知名度アップとその副作用
インフルエンサーを通じてブランドが一気に知名度を高めると、短期間で多くの新規顧客候補がブランドに注目します。この「急速な認知拡大」は、製品やサービスを早期に市場へ浸透させたい企業にとって大きなメリットです。たとえば、新商品リリースのタイミングや、海外市場への参入初期など、スピードが求められる場面で、インフルエンサー活用はその効果を最大限に発揮します。
一方で、急速な拡大には難しさも伴います。多くの顧客が一度に流れ込むと、問い合わせ対応や在庫管理、顧客サポート体制が追いつかない場合があります。また、インフルエンサーの影響力に依存しすぎると、インフルエンサー自身の評判や発言がブランドイメージに直接影響を及ぼすリスクも存在します。インフルエンサー側の不祥事や炎上が発生すれば、せっかく獲得した注目や信頼が一気に揺らいでしまう可能性があるのです。
インフルエンサー活用による知名度アップを最大限活かすには、事前の準備やリスク管理が欠かせません。顧客サポートや在庫調整などの対応策を整え、万一トラブルが発生した場合にも迅速に対処できる仕組みを構築しておくことが求められます。また、インフルエンサー選定の段階から、ブランド価値観に合った相手を見極め、長期的かつ信頼性の高い関係を築くことで、急成長に伴うリスクを軽減できます。
まとめ
海外市場でのブランド認知を向上させるためには、単なる広告展開にとどまらず、ターゲット市場の文化やニーズに適応した戦略的なアプローチが求められます。今回の記事では、海外市場における「ブランディング戦略」についてブランディングの概要や、実践的なブランディングの手法についてご紹介しました。
日本のブランディングは、商品そのものの価値や性能に重点を置きすぎる一方で、海外の消費者は、価格や機能といった直接的な価値だけでなく、ブランド全体の多面的な魅力を重視する傾向が強まっています。「メイドインジャパン」という強みだけでは競争に勝ち抜くのが難しくなっている現在、海外進出を目指す企業にとっては、改めてブランディングのあり方を見直す良い機会といえるでしょう。