成長著しい東南アジア市場など、海外には大きなビジネスチャンスが広がっています。しかし同時に、「海外進出には莫大な費用がかかるのでは?」という不安の声もよく耳にします。
結論から申し上げますと、適切な補助金・助成金を活用すれば、コスト負担を大幅に抑えて海外進出を実現することが十分可能です。
本記事を読むことで、海外進出の際に活用できる国や自治体の補助金・助成金制度について知り、資金計画の選択肢を広げることができますので、ぜひご一読ください。
海外進出における「コストの壁」とは?
海外進出を具体的に考え始めると、さまざまな費用が見えてきます。
例えば、
・現地の市場を詳しく知るための調査費用
・事務所や工場などの拠点設立費用
・現地スタッフの人件費
・製品やサービスを広めるための販路開拓費用
などです。
これらは確かに安価ではありません。特に経営資源に限りがある中小企業にとって、これらの初期投資や運転資金は大きな負担となり、「海外進出=コストが高い」というイメージにつながりがちです。
海外ビジネス特有のリスクも考えると、資金面での不安から躊躇してしまうのも無理はないかもしれません。
補助金を知らないことのリスク、知ることのメリット
しかし、ここで立ち止まってしまうのは非常にもったいないことです。
なぜなら、国や自治体は、意欲ある中小企業の海外挑戦を後押しするために、様々な補助金・助成金制度を用意しているからです。
もし、こうした支援制度の存在を知らないまま計画を進めてしまうとどうなるでしょうか? 本来なら活用できたはずの資金援助を受けられず、自己資金だけで賄わなければならなくなります。
これは資金繰りを圧迫するだけでなく、事業計画の規模縮小や、最悪の場合、計画そのものの中止につながる可能性すらあります。これは大きな機会損失と言えるでしょう。
一方で、利用できる補助金・助成金の情報を事前にしっかりと把握しておけば、資金計画の精度が格段に上がります。
資金調達の目処が立つことで、海外進出への心理的なハードルもぐっと下がるはずです。さらに、獲得した資金を活用して、より充実した市場調査を行ったり、効果的なプロモーションを展開したりと、事業展開の選択肢も広がります。
つまり、補助金・助成金に関する情報を知ることは、コストへの不安を軽減し、より確実で積極的な海外進出を実現するための重要な第一歩なのです。
中小企業が活用できる!海外進出関連の主要な補助金・助成金
では、具体的にどのような補助金・助成金があるのでしょうか。
ここでは、中小企業が海外進出を目指す際に活用できる代表的な制度をいくつかご紹介します。ただし、制度内容は変更される可能性があるため、必ず最新の公式情報を確認するようにしてください。
国が主導する代表的な補助金制度
国が主体となって実施している補助金は、対象となる事業や規模が比較的大きく、全国の中小企業が利用できる可能性があります。
ものづくり補助金<グローバル枠>
ものづくり補助金は、中小企業の生産性向上に資する設備投資などを支援する制度として知られていますが、その中に「グローバル枠」という海外展開に特化した類型があります。
- 目的・対象: 海外事業の拡大・強化を目指す中小企業が対象です。具体的には、海外への直接投資(現地法人設立など)、海外市場を開拓するための活動(ブランディング、プロモーション)、インバウンド需要に対応するための取り組みなどが支援されます。
- 補助額・補助率: 補助額は100万円から最大で3,000万円と比較的高額です。補助率は通常1/2ですが、小規模事業者などは2/3となる場合があります。
- 対象経費例: 海外での事業展開に必要な機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、クラウドサービス利用費、海外旅費などが対象となり得ます。例えば、海外拠点で使う新たな生産設備の導入や、現地向けのECサイト構築費用などが考えられます。
事業再構築補助金
新型コロナウイルス感染症の影響からの回復や、ポストコロナを見据えた大胆な事業転換を支援する制度です。この補助金は、思い切った新規事業への挑戦を後押しするものであり、その一環として海外展開に取り組む場合も対象となります。
- 目的・対象: 新分野展開、事業転換、業種転換など、大きな変化を目指す中小企業が対象です。海外展開が、こうした事業再構築計画の重要な一部である場合に活用できます。
- 補助額・補助率: 補助上限額は従業員規模や申請枠によって異なりますが、非常に大型の支援が特徴です。例えば、大規模な賃上げを伴う成長枠などでは、最大で数億円規模の補助上限額が設定されることもあります。補助率は通常1/2ですが、回復・再生応援枠などでは最大3/4となる場合もあります。
- 海外展開での活用シーン: 国内事業で培った技術やノウハウを活かして海外市場向けの新たな製品・サービスを開発・製造する場合や、海外に新たな生産拠点や販売拠点を設けてサプライチェーンを強化する、といったケースが考えられます。
小規模事業者持続化補助金
比較的規模の小さい事業者(従業員数がおおむね20名以下など、業種により定義あり)が、販路開拓や生産性向上のために行う取り組みを支援する制度です。
- 目的・対象: 小規模事業者の持続的な発展を後押しします。
- 海外展開での活用: 海外市場への販路開拓も対象となり得ます。例えば、海外の展示会への出展費用、外国語版のウェブサイトや販促チラシの作成費用、越境ECサイトへの出店費用などが考えられます。
- 補助額: 通常枠では上限50万円ですが、インボイス対応や賃上げ、後継者支援などの特定の条件を満たす場合は、上限が200万円まで引き上げられる特別枠もあります。小規模ながらも、海外展開の第一歩を踏み出すための資金として活用しやすい制度と言えるでしょう。
JETRO(日本貿易振興機構)による支援
JETROは、日本企業の海外展開を多角的に支援する独立行政法人です。補助金制度だけでなく、情報提供やコンサルティングなど、幅広いサポートを提供しています。
輸出ビジネスモデル実証事業費補助金
これは、単一企業の輸出だけでなく、業界団体や地域の複数企業が連携して新しい輸出の仕組み(ビジネスモデル)を構築し、それを実証する取り組みを支援するものです。
- 目的: 個社では難しい課題を、連携によって解決し、新たな輸出モデルを創出することを目的としています。
- 補助額・補助率例: 過去の公募では、補助率2/3、上限500万円といった例があります。
スタートアップ等輸出支援ビジネスモデル実証事業費補助金
海外市場での成長を目指すスタートアップ企業や、地域の産品を取りまとめて輸出に取り組む地域商社などが、海外販路の拡大や輸出業務の効率化を図る実証的な取り組みを支援します。
- 目的: 新しい技術やサービスを持つスタートアップや、地域経済の活性化に貢献する地域商社の海外展開を後押しします。
- 補助額・補助率例: 過去の公募では、最大4000万円、補助率1/2といった例があります。
その他のJETRO支援
上記以外にも、JETROは海外で開催される大規模な展示会へのジャパン・パビリオン出展支援や、海外展開に必要な専門家(弁護士、会計士、コンサルタントなど)の活用費用の一部を助成する制度などを実施している場合があります。自社の状況に合わせて活用できる支援がないか、JETROのウェブサイトをこまめにチェックすることをお勧めします。
地方自治体独自の支援制度
国やJETROだけでなく、都道府県や市区町村といった地方自治体も、地域企業の海外展開を支援するための独自の補助金・助成金制度を用意している場合があります。
- 概要: 内容は自治体によって様々です。地域の産業特性や、力を入れている国・地域などが反映されていることが多いです。
- 支援内容例: 海外展示会への出展費用の補助、海外バイヤーとの商談会開催支援、現地市場調査費用の助成、外国語ウェブサイト作成費用の補助など、多岐にわたります。
- 情報収集の重要性: これらの情報は、各自治体のウェブサイト(産業振興課、国際課など)や、地域の商工会議所などで確認する必要があります。自社の所在地や進出を検討している地域の自治体情報を積極的に収集しましょう。
海外進出のための申請を成功させるポイントと注意点
魅力的な補助金・助成金ですが、申請すれば必ず採択されるわけではありません。
ここでは、採択の可能性を高めるためのポイントと、申請にあたって注意すべき点を見ていきましょう。
補助金申請の共通のポイント
どの補助金にも共通して言える重要なポイントがあります。
- 事業計画の重要性: なぜ海外展開が必要なのか、どのような市場に、どういった方法でアプローチするのか、具体的な計画と、その実現可能性、そして費用対効果を明確に示すことが最も重要です。「熱意」だけでなく、客観的なデータに基づいた説得力のある事業計画書を作成しましょう。
- 情報収集と準備: 各補助金の「公募要領」には、目的、対象者、対象経費、審査基準などが詳細に記載されています。これを隅々まで読み込み、内容を正確に理解することが第一歩です。必要書類も多岐にわたることが多いので、早めに準備に取り掛かり、提出締切は厳守しましょう。
- 加点要素の意識: 補助金によっては、特定の取り組み(例:デジタル技術の活用、若者や女性の活躍推進、地域経済への貢献など)が加点評価される場合があります。公募要領を確認し、自社の取り組みでアピールできる点があれば、積極的に盛り込みましょう。
申請における注意点
申請プロセスにおいては、いくつか注意すべき点があります。
- 公募期間: ほとんどの補助金には公募期間が定められており、その期間は限られています。常にアンテナを張り、関心のある補助金の最新情報を逃さないようにしましょう。
- 対象経費の確認: 補助金の対象となる経費とならない経費が細かく定められています。対象外の経費を申請に含めてしまうと、審査で不利になったり、採択後に減額されたりする可能性があります。事前にしっかり確認しましょう。
- 採択後の手続き: 補助金は、採択されれば終わりではありません。多くの場合、交付申請、事業実施後の実績報告、経費の証憑提出など、様々な手続きが必要です。これらの手続きを怠ると、補助金が受け取れない場合もあるため注意が必要です。
支援機関の活用
自社だけで申請準備を進めるのが不安な場合は、専門家や支援機関の力を借りるのも有効な手段です。
- 相談窓口: JETRO、中小企業基盤整備機構(中小機構)、よろず支援拠点、地域の商工会議所・商工会などには、海外展開や補助金申請に関する相談窓口が設けられている場合があります。まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
- 専門家: 補助金申請のサポートを専門とする行政書士や中小企業診断士、海外進出コンサルタントなどに相談するのも良いでしょう。費用はかかりますが、採択率を高めるためのアドバイスや申請書類作成のサポートが受けられます。
まとめ:まずは各所窓口で相談をしてみること
この記事では、中小企業の海外進出におけるコストの課題と、その解決策となり得る補助金・助成金について解説してきました。
要点をまとめると以下のようになります。
- 海外進出には確かにコストがかかるが、「コストが高い」というイメージだけで諦める必要はない。
- 国や自治体は、中小企業の海外挑戦を支援する多様な補助金・助成金を用意している。
- ものづくり補助金、事業再構築補助金、持続化補助金、JETROの支援、地方自治体の制度など、自社の状況に合わせて活用できる可能性がある。
- 補助金を獲得するには、事業計画の質を高め、情報収集を徹底し、注意点を守ることが重要。
「海外進出は、うちのような中小企業にはまだ早い…」そう考えていた方も、補助金・助成金という選択肢を知ることで、少し見方が変わったのではないでしょうか。
重要なのは、「コストが高い」という思い込みにとらわれず、まずは利用できる制度がないか情報収集を始めることです。今回ご紹介した制度はあくまで一部であり、時期によって内容も変わります。
ぜひ、JETROや中小機構、お住まいの自治体のウェブサイトなどを定期的にチェックしてみてください。そして、もし関心のある制度が見つかったら、積極的に活用を検討してみましょう。それが、貴社のビジネスを世界へ羽ばたかせるための、大きな推進力となるはずです。
この記事が、皆さまの海外進出への第一歩を後押しできれば幸いです。