海外進出は、中小製造業の経営戦略を語る上で、頻繁に取り上げられる重要なテーマの一つです。そこで本記事では、最新の日本企業の海外進出の動向について確認できる2024年版のランキングトップ10を作成しました。
加えて、それぞれの国の概要だけでなく、中小製造業の進出が多い、ベトナムとタイについてもまとめています。進出先の国を選ぶ際の基準にも触れていますので、海外進出を検討される際の比較情報としてお役立てください。
◆目次
Toggle1. 2024年版・海外進出国ランキングトップ10
本記事は外務省の最新データをもとに、日本企業が進出している国の拠点数をランキング形式で整理しています。またランキング上位の国の特徴についても簡潔に解説します。
引用: 海外進出日系企業拠点数調査
1位: 中国(31060社)
言わずもがなですが、中国は、世界の工場として発展してきました。日本企業の進出先として圧倒的な存在感があります。しかし、近年での経済面での低迷や地政学リスク、規制強化については慎重に見極める必要があります。
2位: 米国(8982社)
米国は、世界最大の消費市場を有し、最先端技術のハブでもあります。特に、高付加価値製品を扱う企業にとっては、大きな成長機会を提供しています。ただし、州ごとに異なる法規制や文化の違いを理解し、適応する必要があります。
3位: タイ(5856社)
タイは、東南アジアの製造業拠点として確固たる地位を築いています。政治的な安定やインフラの整備が進んでおり、中小製造業にとってリスクの少ない進出先といえるでしょう。さらに、親日的な文化もビジネスの成功を後押ししています。
4位: インド(4957社)
急成長する経済と膨大な人口規模を誇るインド。特に若年層が多く、消費市場としての将来性も高いです。ただし、進出の際には現地の法規制や複雑なビジネス慣行を十分に理解する必要があります。近年の海外志向の若手駐在員不足やインド独自の文化に適応できる人材の少なさから、進出にあたっては、人材の確保や現地文化への適応が課題となります。
5位: 韓国(3003社)
韓国は技術力の高い国であり、日本企業との協業も盛んです。特に電子部品や自動車部品分野でのビジネスチャンスが多いのが特徴です。さらに、日本と地理的に近いことも進出先としての大きな魅力です。ただし、現地での商習慣への対応や競争の激しい市場環境には注意が必要です。
6位: ベトナム(2394社)
ベトナムは近年、製造業の進出先として人気が高まっています。若年層が多く、労働力が豊富で、さらに政府が外資誘致に積極的です。また、親日的な国民性も中小企業にとって安心して進出できる要因の一つです。チャイナプラスワンの波に乗って、進出企業の数が年々増加している状況です。
7位: インドネシア(2182社)
インドネシアは東南アジア最大の人口を有し、消費市場としてのポテンシャルが非常に高い国です。また中間層の急増によって、自動車市場が急拡大するなど、今後のさらなる発展に期待できる東南アジアの国といえます。一方で、インフラの整備状況や地域間の経済格差が進出時の課題となります。また今後の首都移転や外資規制の動きにも注力が必要です。
8位: ドイツ(1947社)
ドイツといえば、世界的に知られる自動車メーカーを数多く擁し、ものづくり大国として世界を牽引しています。そしてドイツはEU市場への玄関口として、日本企業にとって魅力的な進出先です。特に製造業においては、高品質な製品を評価してもらいやすい環境です。安定した経済と法規制の整備が進んでいる点も強みです。
9位: マレーシア(1617社)
マレーシアは英語が広く通じること、インフラが整備されていることから、進出先としてのハードルが比較的低い国です。特に物流拠点としての魅力が高く、東南アジア全体へのアクセスを考える企業に適しています。
10位: フィリピン(1604社)
フィリピンは英語を話す若年労働力が豊富であり、特にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やIT関連の進出が増えています。内需拡大も見込まれるため、将来的な成長が期待される市場です。しかし、進出の際には治安面やインフラ整備状況への注意が必要です。一部地域では治安が不安定であり、外資系企業を標的とした犯罪リスクも存在します。
2. 直近5年間での変化について
これまで紹介した国の2018年と2023年時点での海外進出日系企業拠点数をまとめました。直近5年の傾向を把握することで、日本企業の海外進出動向が見えてきます。
2-1. 海外進出日系企業拠点数 |5年間での比較
過去5年間、日本企業の海外進出における拠点数には大きな変化が見られました。
2-2. 海外進出日系企業拠点数|5年間での増減
拠点数の増減において注目すべきは、中国の拠点数が減少する一方で、韓国やタイ、ベトナムでの急激な拠点数の増加です。この変化は、コスト削減やサプライチェーンの多角化だけでなく、世界での製品販売を見越した目的も背景にあると考えられます。
特にタイやベトナムでは、政府が外資誘致政策を強化していることに加え、ASEAN全体での製造業移転が進んでいる影響が見られます。
一方で、中国では地政学的リスクや人件費の上昇が進出のハードルとなり、一部の企業が撤退や縮小を検討している状況と言えます。
3. 海外進出日系企業拠点数 – アジア編
アジア地域は日本企業にとって、最も重要な進出先の一つです。特に製造業では、地理的な近接性、安定した労働コスト、親日的な文化など、さまざまな要因が進出を後押ししています。
3-1. 東南アジアの成長市場について
東南アジアでは、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの国々が注目されています。これらの国々では、政府が積極的に外資誘致政策を展開しており、経済特区の設置や税制優遇措置が進出をサポートしています。
特にベトナムは、安定した政治環境と若年労働力の多さから、製造業の拠点としての地位を確立しています。また、タイは成熟したインフラと輸出入の利便性が評価されています。
3-2. 中国とインド
中国は、依然として日本企業にとって最大の進出先ですが、近年では地政学的リスクや人件費の上昇が懸念されています。そのため、製造拠点を中国から東南アジアに移転する動きも見られます。
一方、インドは急速に成長している市場であり、日本企業の新たな進出先として注目されています。ただし、インド特有の規制や商習慣への対応が必要です。
3-3. 地域全体でのリスク分散傾向に
アジア全体では、進出先を分散させる動きが活発化しています。特に、東南アジアとインドを組み合わせることで、地政学リスクや経済リスクを分散させる戦略が一般的です。
4. 中小製造業が進出するならどこ?
中小製造業が海外進出を成功させるためには、自社の強みや目標に応じた国を選ぶことが重要です。また予算の観点からも、初めての海外進出であれば、対象国は広げすぎず、ターゲットを絞ることも重要です。そして、製造業にとっては、人材獲得面とサプライチェーン面を考慮した進出国の選定が重要なポイントです。
そこで、ここでは特に注目すべき進出先として、ベトナムとタイを取り上げ、その特徴を詳しく解説します。
4-1. ベトナム: 若年人口とアジアNo1の期待値
ベトナムは、若年人口が豊富で労働力の供給が安定している国です。平均年齢が若いだけでなく、教育水準も向上しており、製造業に必要なスキルを持つ労働者が多いことが特徴です。
また、政府は外資誘致に積極的で、税制優遇や経済特区の設置などの施策を通じて、製造業の進出を後押ししています。さらに、親日的な文化が進出時の障壁を低くしており、特に中小企業にとっては安心して進出できる環境が整っています。
4-2. タイ: 安定した基盤と次期東南アジアのハブ
タイは、東南アジアで最もインフラが整備されている国の一つです。交通網や物流の利便性が高く、製造業におけるサプライチェーンの構築が容易です。また、日本企業との関係も深く、既に進出している企業の支援体制が整っています。
さらに、ASEAN全体の経済統合が進む中で、タイは地域全体のハブとしての地位を確立しつつあります。特に、自動車産業やエレクトロニクス分野では、すでに成熟したエコシステムが存在しており、中小企業の参入余地も広がっています。
5. 海外進出国の選ぶ際の基準5選
海外進出を成功させるためには、進出先の選定が極めて重要です。以下では、進出先を選ぶ際に考慮すべき5つの基準を詳しく解説します。
5-1. GDP: 中間層の成長率
進出先を選ぶ際には、GDPの成長率に加えて、中間層の拡大状況に注目することが重要です。中間層が成長している国では、購買力が増大し、安定した市場を形成する傾向があります。また今後の内需も期待できるので、早めに現地での土台作りが重要になってきます。
ジェトロのサイトにて、各国のGDPなどを詳しく確認できますので、気になる国をぜひ調査してみてください。
5-2. 人口: 若年層割合と今後の増加率
人口動態も重要な指標です。若年層が多い国は、労働力としての供給が安定しており、消費市場としての将来性も期待できます。特に、ベトナムやインドネシアのように人口が増加している国は、長期的な視点での進出が有望です。
5-3. 立地: 地政学リスクを考慮
地理的条件も無視できません。地政学リスクが低い国や、主要な輸出入市場へのアクセスが良い国は、ビジネスの安定性を確保する上で有利です。例えば、タイはASEAN諸国へのアクセスが良く、輸出拠点として最適です。
5-4. 法律: 外資規制
外資に対する規制の有無や、ビジネスライセンスの取得プロセスは進出時の大きなハードルとなり得ます。進出予定国の法律や税制に関する詳細な情報を事前に調査し、必要に応じて現地のコンサルタントを活用することが推奨されます。
5-5. 対日感情: 親日度合い
親日的な国は、日本企業に対する信頼が高く、ビジネスを進める上での障壁が低い傾向にあります。タイやベトナムのような親日国では、現地企業や行政との良好な関係を築きやすいことが大きなメリットです。
ちなみにアジアでは1番、タイが親日国というデータが出ています。
6. 日本企業が海外進出する背景
これまでは、日本企業が海外進出を積極的に行う背景には、コスト削減を目的とするケースが非常に多かったのですが、近年では日本国内市場の変化やグローバルな競争環境の変化によって、海外進出の目的が変化しています。ここでは、その主な要因について説明します。
6-1. 日本経済の縮小
日本国内では少子高齢化が進み、経済全体の成長率が鈍化しています。特に製造業では、国内需要の飽和や人口減少による市場の縮小が課題となっています。そのため、国内だけではなく、成長が続く海外市場に活路を見出す企業が増えています。
例えば、東南アジアの新興市場では、中間層の拡大に伴い消費需要が増加しています。これらの市場に進出することで、新たな収益源を確保することが可能です。
6-2. 新興国の台頭
新興国では、経済成長に伴い、インフラの整備や労働力の質が向上しています。これにより、製造業の進出先としての魅力が高まっています。また、新興国の多くは親日的な政策を取っており、進出を支援する制度やインセンティブが充実していることも特徴です。
さらに、新興国の成長に伴い、日本企業にとっても新しい協力や提携のチャンスが広がっています。特に、インドやベトナムなどの国では、現地企業との共同事業やパートナーシップが増加傾向にあります。
7. 日本企業が海外進出する狙い
日本企業が海外進出を図る際には、単に市場拡大を目指すだけでなく、複数の戦略的な目的を持っています。ここでは、その主な狙いを2つの観点から解説します。
7-1. 新規市場の開拓
国内市場が飽和状態にある中で、新たな収益源を確保するためには海外市場の開拓が不可欠です。特に、アジアやアフリカなどの新興市場では、若年層を中心とした消費者層が増加しており、中間層の購買力も向上しています。
例えば、ベトナムでは家電製品や自動車部品、タイでは食品加工機械といった分野で、日本製品の需要が高まっています。これらの市場に早期に参入することで、現地でのブランド認知を高め、競合他社に対する優位性を確保することが可能です。
これからの日本企業の海外進出においては、特に以下の観点を持った市場開拓が求められると感じます。
・ニッチな市場を発見すること
国内ではレッドオーシャンの事業が、海外では新鮮で需要の高い事業である可能性も。
・日本ブランドの価値の向上されること
今一度、日本製の品質力を活かし、現地国でブランディングを強化することで、新たな市場開拓のチャンスを得られる機会に。
7-2. リスク分散による経営の安定化
海外進出は、経営リスクを分散させる手段としても有効です。国内市場に依存するビジネスモデルでは、自然災害や経済不況といった突発的なリスクに弱くなる傾向があります。複数の国に事業を展開することで、リスクを分散し、経営の安定性を高めることができます。
例えば、東南アジアの複数の国に製造拠点を設けることで、1国における供給チェーンの問題や規制変更の影響を最小化できます。また、複数国での販売を行うことで、為替変動のリスクも緩和することが可能です。
8. 【まとめ】海外進出の成功には適切な国選びをすること
本記事ではいくつかの観点やデータに基づいて、ランキングと中小製造業が進出すべき進出国について触れました。
中小機構の2024年の調査によると、「日本企業が海外展開を実現できた要因」のTOP3は以下です。
1. 信頼できる現地パートナーの開拓(54.9%)
2. 製品等の現地市場ニーズへの適合(33.8%)
3. 顧客の開拓(33.1%)
引用: 中小企業基盤整備機構 / 中小企業の海外展開に関する調査(2024年)
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