海外市場への進出を考える際には、まず 「どこ」 の 「誰」 に 「どうやって」 製品やサービスを売り込むかを明確にする必要があります。国内市場とは異なる商習慣や市場環境の中で、事前のターゲット選定が成功への鍵となります。
この記事では、海外市場開拓に有効なマーケティング手法 「アカウントベースドマーケティング(ABM)」 をご紹介します。ABMを活用することで、新しい市場でのマーケティング戦略の基盤を構築し、効率的な営業活動を実現する方法を解説します。
◆目次
Toggleアカウントベースドマーケティング(ABM)とは?
アカウントベースドマーケティング(ABM)とは、 自社にとって最も価値の高い顧客層に焦点を当て、個別に最適化されたアプローチを行うマーケティング手法 です。釣りに例えるなら、特定の魚が多く集まる場所を狙い、一網打尽にするような戦略です。
ABMは新しい概念ではありませんが、特に海外市場開拓を目指す企業にとっては重要な戦略といえます。ターゲット顧客を明確化し、その顧客に絞ったアプローチを行うことで、効率的かつ高い成果を得ることが可能です。
なぜ海外市場でABMが有効なのか?
従来の 「人海戦術」 に頼った営業方法は、海外市場では効果を発揮しにくくなっています。例えば、東南アジア諸国では近年の経済成長に伴い、現地スタッフの人件費が上昇しており、かつてのように安価な労働力に依存するのが難しくなっています。
また、優秀な人材の採用競争が激化しているため、属人化した営業スタイルでは再現性のある組織拡大が困難です。このような課題を解決するために、効率的かつデータ主導の営業活動を実現するABMが重要視されています。
加えて、欧米企業、中国・韓国企業なども続々と東南アジアに進出するなかで人材獲得の競争も激化しており、優秀な営業マンだけでなく、一般的な営業マンも採用するハードルは高くなってきています。仮にこのような状況下で大量に営業マンを採用し、人海戦術的な営業スタイルを実施していったとしても、組織を拡大する際の再現性は低く、属人化をもたらします。
そして日本と比べ、海外では営業マンの離職率も高い傾向にあるため、アカウントベースドマーケティングのような概念を自社の営業チームに積極的に取り入れていく必要があるといえます。
アカウントベースドマーケティングを行うための3ステップ
ABMの成功には、ターゲットの明確化と戦略的なアプローチが不可欠です。以下の3つのステップで進めていきましょう。
※本記事でのABMは、自社の顧客リスト(名刺や過去のデータ等)を利用してセグメントを行う前提で解説しています。
ステップ1 : ポテンシャルと見込み度の条件の設定
まず、自社にとって価値の高い顧客条件を定義します。
- ポテンシャル: 自社にとって理想的な顧客像
- 見込み度: 受注可能性が高い顧客ステータス
ここでは「ポテンシャル」と「見込み度」の2軸決め、自社にとって良い顧客条件を設定することから始めます。まずはポテンシャルの考え方についてですが、自社の顧客を思い浮かべてみてください。
・相手の企業はどんな企業だったか?
・企業内の担当者はどんな人であったか?
「受注率が高い顧客」「受注単価が高い顧客」「これから狙いたい顧客」などの観点で条件を整理していきます。営業担当とマーケティング担当など役割分担がされているチームでは、それぞれの認識がずれないように、この条件を合わせることも大切です。
整理ができれば、それらの顧客群に対して、ABCDなどでランク分けをおすすめします。例えば、設定した顧客群をAとした場合、これだけだとどうしても母数が少なくなってしまいます。そこで、Aから少し条件がずれた顧客群をBとし、さらにずれたものをC、Dと条件を緩めていくイメージでポテンシャルを決めていきます。
以下はポテンシャルランクの設定例です。
次に、見込み度の高さを設定していきます。自社の製品を検討しているユーザーが受注に至るまでにどんなプロセスを経ているかを思い浮かべてください。例えば、「メルマガ登録 → 資料ダウンロード → Webサイトを数ページ閲覧 → 見積もり…」というようなプロセスがあった場合、ユーザーがどのフェーズにいるのか?を把握することで、見込み度の条件設定が可能です。この条件に対してもステータス1~5のように段階を分けていきます。
※ここでは既にマーケティングツールを活用していて、Webサイトを数ページ閲覧しているなどのユーザーのデジタル上の情報を持っていることが前提で解説をしています。これらが不明の場合は「展示会来場 → 資料請求 → 見積もり → 商談…」など、自社に合わせて見込み度を組み合わせてみてください。
以下は見込み度ステータスの設定例です。
こうして決めていったポテンシャルと見込み度のランクをマトリクスにし「A-3」といったように両軸のランクを設定することができます。
A1、A2とセグメントしたことで、自社のターゲット像が固めることができました。A1よりはA2の方が受注率が高い可能性があるため、これらの顧客群のリスト作成をすることができれば、リストを営業に渡すことで効率よくアプローチを進めることができます。
それとは逆に、ポテンシャルの低い部分は自社のターゲット外ということになるので、ここは営業に渡さず切り捨てるようにすることも大事です。または、マーケティング担当者が主導になって、まだまだステータスが低い顧客群に対してはリスト育成を行い、ステータスをステップアップさせるような活動も重要になります。
ステップ2 : ターゲットにピンポイントでアプローチする
ランク分けした顧客の中でも、特に優先度の高い顧客に集中してアプローチを行います。効率的な方法として、メールマーケティングやテレマーケティングを活用するのがおすすめです。ステータスをアップさせる上では、まずはポテンシャルが高い、AとBランクに対して継続的に接点を持っていくことが重要です。そこで営業マンは、このAやBに対してピンポイントでアプローチを行っていきましょう。
ステップ3 : ターゲットのステータス把握
顧客のステータスの変化を定期的に追跡し、アプローチの成果を評価します。マーケティングオートメーションツールを活用することで、効率的に管理が可能です。
※マーケティングオートメーションツール(MAツール)とは、CRMのような顧客の基本情報管理機能に加えて、その企業または企業に属する個人がどれくらい自社サイトに訪れているか、どんなページを見ているかといったオンライン上の行動が自動的にトラッキングされるようなツールです。さらに、オフライン上での営業活動によって把握した情報も追加することができ、これらの包括的な情報をMAツールが一元管理できます。
ABMを活用して海外市場で成功を掴む
ここまで紹介したアカウントベースドマーケティング(ABM)は、単なるマーケティング手法ではなく、海外市場での営業活動を効率化し、持続可能な成長を実現するための戦略的な枠組みです。 特に競争が激しい海外市場では、広く浅いアプローチよりも、特定のターゲットに絞った深いアプローチが効果的です。
ABM成功事例 ~具体例から学ぶ~
事例1:ベトナム市場へのBtoB製品展開
ある日本企業は、ベトナム市場での工業用製品販売を目的にABMを導入しました。初めに現地の製造業トップ50社をターゲットリストに設定し、次のステップを実施しました。
- ターゲットの詳細分析: ターゲット企業の業界動向や成長戦略を調査。
- パーソナライズしたアプローチ: 各企業に合わせたメールキャンペーンとオンラインセミナーを開催。
- 成果: 高ポテンシャルの企業20社との商談が成立し、販売数が前年比150%増加。
事例2:欧州市場でのソフトウェア展開
欧州市場への進出を目指した日本のIT企業は、特定業界(製薬業界)のニーズに特化したABM戦略を採用しました。
- 戦略の焦点: GDPRに対応したデータ管理機能を強調し、製薬企業に直接提案。
- デジタルツールの活用: 顧客の関心度を追跡できるマーケティングオートメーション(MA)ツールを導入。
- 成果: 新規顧客獲得コストを30%削減し、欧州主要国での売上を急成長。
海外市場でABMを成功させるポイント
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データの収集と活用
ターゲット顧客の詳細な情報を収集し、ニーズや課題を明確にします。例として、以下のデータを活用します。- 顧客の業界トレンド
- 市場参入時の障壁(例:規制や法制度)
- 顧客が直面する課題とそれに対するソリューション提案
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ローカライズされた戦略の構築
海外市場では「ローカルに根ざした」アプローチが重要です。たとえば:- 言語や文化に配慮したマーケティング資料の作成
- 地域ごとの商習慣を考慮した営業トークの準備
- 現地パートナーとの連携による信頼構築
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テクノロジーの活用
ABMを効率的に進めるためには、以下のツールが有効です。- CRM(顧客関係管理ツール): 顧客情報の一元管理
- マーケティングオートメーション(MA): 顧客の行動データを基に、適切なタイミングでのアプローチを実現
- データ分析ツール: 顧客行動を可視化し、戦略を最適化
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現地チームとの協力体制
現地スタッフやパートナーと密接に連携し、ターゲット顧客に最適化された提案を行います。特に東南アジアでは、現地言語や文化への理解が成功の鍵となります。
まとめ
ABMは、単なる営業手法にとどまらず、海外市場でのビジネス拡大を持続可能にする戦略的な手段です。特定のターゲットに焦点を当てたアプローチを採用することで、競争の激しい市場でも確実な成果を上げることができます。
これから海外市場進出を目指す企業は、ABMを活用し、効率的かつ効果的な営業戦略を構築してください。ターゲット顧客を明確化し、リソースを集中させたアプローチで、海外ビジネスの成功を手に入れましょう。